株式会社ティムス代表取締役社長の若林です。

当社が開発を進めるTMS-007/JX10は、現在、グローバル臨床試験「ORION」が開始され、次のステージへと進んでいます。ここに至るまでには、導出先の方針変更に伴う一時的な開発停滞と、それを乗り越えるためのパートナーシップの再構築というプロセスがありました。この過程は、バイオベンチャーとしてのレジリエンス(再起力)が問われる局面でした。

本稿では、TMS-007の治験再開に至る経緯と、今後の開発・上市に向けての事業姿勢についてお伝えします。

※本ページは、当社の研究開発状況をお伝えするものであり、医薬品の効能・効果を保証するものではありません。記載内容は治験段階の情報を含みます。

治験遅延とパートナー変更:開発継続に向けた再構築まで

当社が開発を進めるTMS-007は、2022年の株式上場時点では、米国の製薬企業・バイオジェン社との提携のもと、グローバル臨床試験の準備が進められていました。

提携自体は2018年に成立したもので、当時は資金的に厳しい局面でもあり、TMS-007の将来性に期待を寄せる有力なパートナーと提携できたことは、開発・経営の両面で大きな転機となりました。バイオジェン社は、2021年には、国内前期第2相試験の結果が非常に良好であったことを受けて、本格的にグローバル臨床試験の準備を開始しました。

しかしその後、バイオジェン社の経営陣刷新と、それに伴う開発戦略の見直しにより、当初想定していたスケジュールでの進行が困難となります。当社はできる限り情報収集に努めたものの、バイオジェン社自体がこのプロジェクトをどうするか検討中だったこともあり、具体的な情報を得られない期間がしばらく続きました。

主導権が外部にある状況では、治験再開の見通しを立てるのが難しく、一時的にプロジェクトは停滞することとなりました。それでも、国内前期第2相試験の安全性・有効性のデータに支えられたTMS-007の将来性は揺らぐことはないとの思いの下、社内ではさまざまなシナリオに対応できるように準備をしていました。

CORXELとの新たな提携と開発再開

新たな転機となったのが、Corxel Pharmaceuticals Limited(以下「CORXEL社」)との再提携と、それを支援するRTW Investments(以下「RTW社」)の存在です。

RTW社は、米国ニューヨークを本拠とする世界的なバイオの投資家で、2019年にCORXEL社を設立し、今も80%以上の株式を保有しています。CORXEL社は、バイオジェン社からTMS-007の開発権を引き継いだうえで、プロジェクトの再開に取り組む方針を示しました。

2025年2月には、CORXEL社主導によるグローバル臨床試験「ORION」が開始。日本国内では、同年4月にPMDAへ治験届を提出し、当社が国内開発パートナーとして参画する体制となりました。

開発主体の変更により、新たな体制での治験推進が可能となりましたが、当社の目指す方向性は変わっていません。TMS-007を通じて、これまで治療対象外だった急性期の脳梗塞患者に選択肢を提供すること、そして約30年にわたって新たな治療薬がなかった脳梗塞という重要な疾患の治療を前進させることが、当社の一貫した目標です。

また今回の提携においては、CORXEL社から日本におけるTMS-007の開発・商業化権を無償でライセンスバックされており、日本市場における収益化の権利は、再び当社の手に戻っています。

「責任をもって見届ける」という姿勢

TMS-007は、グローバルでの開発・販売に関する権利を他社(バイオジェン社→CORXEL社)に供与しているプログラムです。しかし当社は、開発を他者に全面的に委ねるのではなく、できるだけ当社としても責任をもって関与し続けたい、必要であれば自社の手で再び推進することも辞さないという意思を持ち続けてきました。

一般にバイオベンチャーは、医薬品や医療技術の研究開発を主な事業とする企業形態ですが、開発には長い時間と多額の投資が必要となるため、限られた資源のなかで戦略的な提携や導出を行うケースが多くあります。導出後は開発を全面的にパートナーに任せてしまう(任せざるを得なくなってしまう)ことも少なくありません。

そうしたなかで当社は、TMS-007の治験が停滞していた時期にも、契約上の制限はありながらも、将来的な再開の可能性を見据えて準備を継続してきました。

TMS-007は、研究段階にあった段階から、当社が単独で第1相臨床試験、前期第2相臨床試験と実施してきたものであり、TMS-007について最も分かっているのは自分達だ、その可能性を一番引き出せるのは自分達だ、という自負があったのが、大きな要因でした。TMS-007を医薬品として患者に届ける責任がある、最後まできちんと見届けたい、というようにも感じています。

こうした姿勢は、当社の成長可能性を語るうえでの重要な基盤です。導出を行ってビジネスの成立を図ることにとどまらず、患者への治療選択肢を現実に届けることを最終目標とし、そのために最善の努力を重ねていきたいと考えています。また、サイエンス面だけを考えるのではなく、上市した後の収益面についても常に考え続けています。

幸いにも、当社と、パートナーであるCORXEL社の関係は非常に良好です。今後も、TMS-007の価値を最大化し、医療と株主利益の両面に貢献することを目指してまいります。