株式会社ティムス代表取締役社長の若林です。
今回は、新薬が承認されて実際に使われるようになるまでの一般的なプロセスについてご説明したいと思います。製薬業界の方や、バイオベンチャーをよくご存じの方にとっては当たり前のことかもしれませんが、業界の外では意外と知られていないようなので、できるだけ簡単に解説してみます。
※本ページは、当社の研究開発状況をお伝えするものであり、医薬品の効能・効果を保証するものではありません。記載内容は治験段階の情報を含みます。
米タフツ大学の報告によると、新薬を一つ開発するためには、平均的に10~15年の時間と14億ドル($1=150円換算で2,100億円)の費用がかかるとされています。これはあくまでも平均的な数値で、実際には、対象とする疾患や、薬となる「モノ」がどういう種類の物質であるのか(「モダリティ」と言います)などの様々な要因によって大きく異なります。
また、開発コストには、開発が失敗したことにより投資回収できなかったプログラムのコストも含まれます。ただ、新薬の開発に長い時間と多大なコストが必要とされるのは事実です。
新薬の開発プロセスは、「探索研究」に始まり、ヒトへの投与の準備段階である「非臨床開発」、そして「臨床開発」へと進み、最終的に当局に承認されることで販売が可能となります。「臨床開発」は、一般的に「第Ⅰ相」「第Ⅱ相」「第Ⅲ相」と三段階に分けられます。
臨床試験は、有効性や安全性が確立されていない物質をヒトに投与するわけですから、準備段階である非臨床段階も含めて、厳密に管理されたプロセスの下で行われます。実際に投与される「モノ」の準備や製造も厳密に管理されます。ですから、どうしても時間とお金がかかってしまうのです。
また、臨床試験に入った物質でも、最終的に承認を得られる確率は10%程度と言われています。製薬企業側としては、承認に至らなかった90%のプロジェクトの開発コストも、承認された残りの10%のプロジェクトでカバーしなければならないというのも、開発コストが大きくなる理由です。
一般的な新薬開発の各プロセスは、概ね以下のとおりです。プロジェクトにより実際はバラツキが大きいというのは、上述したとおりです。
「探索」段階は、試行錯誤が占める要素が大きくなるため、プロジェクトによってかかる時間はバラバラです。この段階から「非臨床試験」に至ることができるプロジェクトはごくわずかです。また、場合によっては「市販後試験」という第Ⅳ相試験が課せられる場合もあります。
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フェーズ |
平均期間の目安 |
備考 |
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前臨床(探索・非臨床試験) |
約3~6年 |
薬物候補の発見、安全性・薬物動態試験など |
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第Ⅰ相試験 |
約1.5年 |
健常人/少数患者での安全性・投与量設定 |
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第Ⅱ相試験 |
約2.5年 |
数百例規模で有効性・用量反応を検証 |
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第Ⅲ相試験 |
約3.5~4年 |
大規模試験で有効性・安全性を確認、承認データ取得 |
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申請~承認審査 |
約1~2年 |
FDA/EMA/PMDAによる審査・質疑応答 |
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合計(前臨床含む) |
約10~15年 |
平均は11~12年程度 |
米Bio innovation Organization(BIO)によると、第Ⅰ相試験・第Ⅱ相試験・第Ⅲ相試験の成功率は、それぞれ約52%、29%、58%となっています。また、第Ⅲ相で成功したプロジェクトが実際に承認を得られる確率は約91%です(※)。ここから分かる通り、一番難しいのは第Ⅱ相試験となります。
第Ⅱ相試験は、一般的に初めて実際の患者に投与が行われる試験であり、有効性・安全性ともに許容範囲であることが求められます。また、製薬企業としては、大規模で費用がかさむ第Ⅲ相に進む価値があるかどうかを見極める試験でもあります。
当社のTMS-007/JX10は、国内で行われた前期第Ⅱ相試験で有効性・安全性ともに非常に優れていることを示唆する結果が得られました。つまり、新薬開発で最も困難とされる関門を突破したとも言える状況にあります。
もちろん、だからと言って承認が保証されているわけではありません。現在実施されている第Ⅱ相/第Ⅲ相試験「ORION」において、740例という大規模な症例数において有効性と安全性を確立することが最低限の条件です。
当社としては、ORION試験を滞りなく実施し、前期第Ⅱ相試験で得られた結果を再現することができるよう、全力を尽くしていきたいと考えています。