株式会社ティムス代表取締役社長の若林です。
前回のポストでは、「rNPV」を大まかに把握するために特に重要な三つの要素、①ピーク時売上高、②製造原価、③開発成功確率のうち、①ピーク時売上高と②製造原価について書きました。今回は③開発成功確率についてです。
開発成功確率の予測は、rNPVを算定するうえで非常に重要であり、かつ難度が高い作業です。下図は疾患分野別/開発段階別の業界平均ですが、手がかりとなる数字がないときには、こういった数字を用います。
図を見ての通り、最も成功確率が低いのはPhase II試験になります。Phase II試験は、一般的に初めて患者さんに投与する試験になりますが、予測の根拠に用いるデータが限られているので、当然の結果と言えます。とは言え、開発品の種類によってPhase IIの予測可能性も大きく異なります。例えば、全く新しい作用機序の開発品(いわゆるピカ新)と、既に同じ作用機序の先行開発品がある場合では、予測難度が大きく異なります。
また、何をもって「成功」とするかも大きな要素です。この図では、「Phase II成功」ではなく「Phase II to III」と書かれており、例えばPhase II試験で当初の目的を達成しても何らかの理由でPhase III試験を行わない方がよいと判断されたようなケースも含まれます。Phase IIIを始める前に他の先行品が優れた結果を出し、自らの開発品では敵わないと判断するようなケースがこれに当たります。

- 拡大
- 出典:BIO / QLS Advisors / Informa UK Limited “Clinical Development Success Rates and Contributing Factors 2011-2020”
製薬会社が臨床試験を設計する際には、当然ながら、業界平均の成功確率をそのまま使うのではなく、様々な根拠に基づいて成功確率を算出します。Phase II成功確率を予測する際には、作用機序の確からしさ、非臨床試験の結果(薬効データや毒性データ)等が主な根拠となります。
Phase III成功確率の予測では、Phase IIのデータが最も重要な根拠になります。非常に単純化すると、(A) Phase IIのデータ(開発品群と対照群の差)と(B) Phase IIIの組入患者数をインプットすれば、Phase IIIの予測成功率が算出できます。現実には、Phase IIとPhase IIIの試験デザインが全く同じとはなりませんし、臨床試験を実施する国や施設等の環境が異なるので、このような単純化は非現実的です。また、最も注意すべきなのは、「Phase IIの結果が偶然よかった(悪かった)」(サンプリングエラー)場合で、「開発品群と対照群の差は実際にはどの程度か」という範囲を設定し、ある程度までのサンプリングエラーに耐えられる試験設計を行うことになります。作業としては、(A)を幅を持って安全めに想定し、これに対応するように(B)を増やすことで、一定以上の成功率(通常は80%以上)を担保する設計とすることとなります。
以上、三回にわたって、rNPVについて、またrNPVを算定するうえで特に重要な三つの要素について書いてきました。会社側がこれらの要素を根拠付きで開示するようになれば、バイオ企業の企業価値はぐっと健全化に近づくことになると思います。