株式会社ティムス代表取締役社長の若林です。
東京農工大学発の創薬ベンチャーとして設立した当社は、限られた資金と人員の中で「TMS-007(JX10)」の開発を進めてきました。
資金難や試行錯誤を重ねるなかで、研究開発を支えてくださった投資家・専門家・社員たちの存在が、当社の成長の礎となりました。
本稿では、その創薬ベンチャー時代を支えた人々とのエピソードをご紹介します。
※本ページは、当社の研究開発状況をお伝えするものであり、医薬品の効能・効果を保証するものではありません。記載内容は治験段階の情報を含みます。
2005年2月、当社は東京農工大学発酵学研究室(蓮見惠司教授、同年より研究成果実用化のための兼業として、当社取締役として参画)の医薬シーズを実用化することを目的として、資本金1千万円で設立されました。
創薬ベンチャーは資金面の苦労がつきものです。当社も例外ではなく、設立初期から何度も資金繰りの壁に直面しました。しかし、TMS-007(JX10)が保有する魅力、医薬品としてのポテンシャルが評価され、さまざまな外部の方が協力してくださりました。
2009年、蓮見のTMS-007(JX10)に関する論文を目にした本田一男氏(当社監査役・当時は昭和大学教授)から連絡をいただきました。本田氏は、山之内製薬から昭和大学に移られ、長年構想していた脳梗塞を再現する新しい動物モデルを確立したところでした。
その動物実験に「TMS-007を試してみたい」と申し出をいただき、共同研究の形で動物実験を実施。明確に良好な成果が得られたことで、蓮見はTMS-007(JX10)が脳梗塞の治療薬として実用化される未来を確信しました。
蓮見は、これを契機にさまざまな実験を繰り返し、こららの実験データが評価され、2011年に独立行政法人科学技術振興機構(JST)「研究成果最適展開支援事業」に採択されることとなったのです。
JSTからの支援により、本格的に医薬品としての開発を実施する整えることができたほか、私が当時運用していたファンドや、三菱UFJキャピタル株式会社、株式会社新日本科学、株式会社KSPなどの投資家からの出資も受けました。これらの投資は、各社の担当者が社内を丁寧に説得し、理解を得てくださった結果です。
その後、Ph2a実施のためにさらに資金が必要となった局面では、DCIパートナーズ、ニッセイキャピタル、東北大学ベンチャーパートナーズ等の多くの投資家にご協力いただき(数が多くて書ききれません)、さらに足かけ5年をかけたバイオジェンとの契約締結を経て、IPOに至りました。
何度も資金難に陥りながらも、当社が事業を続けられたのは、資金面で支援してくださった投資家や関係者に加え、創業当初から献身的に支えてくれた社員の存在も大きくあります。
とくに厳しかったのは、JST採択までの時期でした。会社の資金が尽き、社員も一時的にゼロという状況に。それでも、コアメンバーはアルバイトのような形で生活をつなぎながら待っていてくれました。
JSTからの助成金が交付された後は、コアメンバー3名が復帰、その努力が実り、事業を前進させることができました。
バイオジェンとの契約交渉では、三菱UFJキャピタルから紹介されたSteve Engen氏からの、豊富な経験に裏打ちされた助言が大きな助けになりました。
また、同キャピタルの安江滋氏(当時)は、交渉の全ての場面に同席してくださりました。製薬企業との交渉経験が少なかった当社にとって、非常に心強い存在でした。
バイオジェン側にも、早い段階からTMS-007の可能性を信じてくださった方がいました。当時バイオジェン・ジャパンの研究開発本部長であった鳥居慎一氏は、社内で慎重な議論を重ねる中、トップ層を一人ずつ説得してまとめてくださいました。後から聞いた話では、社内会議で二度も否決され、三度目にようやくOKが出たとのことで、鳥居氏ご自身も未体験な苦労と感動をお感じになられたそうです。
多くの投資家、専門家、社員の努力によって、ティムスは創薬ベンチャーとしての礎を築くことができました。私には、一つの化合物が、まるでそれ自体が意思を持っているかのように多くの協力者の方々を惹きつけてきたストーリーのようにも感じられます。あらためて、これまで支えてくださった皆さまに心より感謝申し上げます。