ティムスのパイプライン(新薬候補)の根幹をなすSMTPとは、60種類以上の同族体(類似構造の化合物)からなる化合物群です。ティムスでは、SMTP同族体の特性に応じて適応となる疾患を選択しています。

SMTP

SMTPはクロカビ(注1)の一種であるStachybotrys microsporaが産生する新規トリプレニルフェノール(triprenyl phenol)の一群で、その頭文字から命名されました。基本となる化学構造はビタミンE群と類似しています。

 

【注1】カビといっても多様な種類があり、人類にとって有用なカビも数多くあります、例えば、抗生物質ペニシリンを作るアオカビ、発酵食品に欠かせない麹菌、コレステロールを下げる薬を作る紅麹菌などがその代表例です。

SMTP同族体の選択的生産法

私たちはこれまでに60種類以上のSMTP同族体を発見しています。SMTPはその部分構造の相違に応じて、薬剤としての特性が大きく変化します。私たちは、これら多様なSMTP同族体を選択的に生産する方法を開発しています(図1)。

 

SMTPの作用

SMTP同族体のいくつかは、(1)血栓溶解促進、(2)抗炎症、(3)抗酸化の3つの作用を持ち、その複合的効果により優れた脳梗塞改善作用を示します(タイプA SMTP)。また、血栓溶解促進作用を持たず、抗炎症・抗酸化作用を有する同族体は炎症性病態の改善に効果を示します(タイプB SMTP)(図2)。

 

血栓溶解促進作用

SMTPの血栓溶解促進作用は、SMTPがプラスミノーゲン(注2)の立体構造(コンホーメーション)を変化させることにより発揮されます。血液循環中のプラスミノーゲンの立体構造はタイトであるため、プラスミンへの活性化は容易に起こりません(注2)。SMTPは、プラスミノーゲンの立体構造を緩めてフィブリン(血栓の主成分)への結合を促進します(図3)。その結果、生理的血栓溶解が促進されます(図4)。

 

【注2】プラスミノーゲンは血液中を循環するタンパク質で、血栓溶解酵素であるプラスミンの前駆体。プラスミノーゲン活性化因子(t-PAなど)によって1カ所切断を受けるとプラスミンとなります(これをプラスミノーゲンの活性化といいます)。この活性化は、生理的には血栓上に限定して起こります。

 

抗炎症作用

SMTPの抗炎症作用は、炎症の制御に重要な可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)という酵素を阻害することにより発揮されます(図5)。SMTPは、sEHの二つの触媒活性(N末端領域のホスファターゼ活性とC末端領域のエポキシドヒドロラーゼ活性)を同時に阻害します。sEH欠損マウスはさまざまな炎症性病態に抵抗性を示しますが、SMTPの薬理作用はこれと一致します(図2参照)。

 

抗酸化作用

ビタミンEには抗酸化作用があることが知られています。SMTPはビタミンEと類似した構造を持つため、同様の抗酸化作用を示します。この抗酸化活性もSMTPの優れた薬理作用に貢献しています。

TMS-007の薬理作用メカニズム

TMS-007はタイプA SMTP同族体の一つで、血栓溶解促進、抗炎症、抗酸化作用を併せ持ちます。これにより、TMS-007は優れた脳梗塞改善作用を示します(図6)。前期第Ⅱ相試験で、有効性と安全性が示されました。

TMS-008の薬理作用メカニズム

TMS-008はタイプB SMTP同族体の一つで、抗炎症、抗酸化作用を持ちますが、血栓溶解促進作用はありません。このため、TMS-008は炎症性疾患の治療に特化した医薬品としての開発が期待されます(図7)。

 

総説論文(オリジナル論文は文献1に全て記載されています)

1)    Hasumi K, Suzuki E (2021) Impact of SMTP targeting plasminogen and soluble epoxide hydrolase on thrombolysis, inflammation, and ischemic stroke. Int J Mol Sci 22, 954. 

https://doi.org/10.3390/ijms22020954.

 

2)    蓮見惠司 (2021) 血栓溶解と抗炎症作用を併せ持つ小分子SMTPの脳梗塞治療薬開発.日本血栓止血学会誌 32, 278–283.https://doi.org/10.2491/jjsth.32.278


3)    Hasumi K, Yamamichi S, Harada T (2010) Small-molecule modulators of the zymogen activation in the fibrinolytic and coagulation systems. FEBS J 277, 3675–3687.

https://doi.org/10.1111/j.1742-4658.2010.07783.x


4)    蓮見惠司(2018)血栓溶解を促進する化合物―新たな脳梗塞治療薬の開発を目指して.化学と生物56,190–196.https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu.56.190