株式会社ティムス代表取締役社長の若林です。

当社は、東京農工大学での創薬研究を起点に、上場を果たした大学発バイオベンチャーです。

TMS-007をはじめとするSMTP化合物のパイプラインは、蓮見惠司(現・取締役会長、東京農工大学名誉教授)のもとで、前任の教授であった遠藤章先生の「創薬哲学」とも言える考えを継承するかたちで生まれました。ここには、アカデミアとビジネスの壁を越えた、ティムスのDNAとも呼べる意思決定の積み重ねがあります。

※本ページは、当社の研究開発状況をお伝えするものであり、医薬品の効能・効果を保証するものではありません。記載内容は治験段階の情報を含みます。

「東京農工大学発ベンチャー」から「バイオ創薬企業」へ

ティムスは、2005年に東京農工大学発の創薬ベンチャーとして設立されました。創業のきっかけとなったのが、蓮見が長年取り組んできた「SMTP(Stachybotrys Microspora triprenyl phenol)」化合物群の研究です。SMTPは、カビの一種から見出された生理活性物質で、血栓溶解や抗炎症、抗酸化の作用を持つことが分かり、医薬品への応用が期待されました。

スタチン研究から治療薬探索への転換

蓮見は、コレステロール低下薬「スタチン」の発見者として知られる遠藤章先生(東京農工大学特別栄誉教授・故人)とともに、微生物由来の天然物から医薬品候補となる生理活性物質を探索する研究を牽引してきました。

ご存じの方も多いと思いますが、スタチンはコレステロールを低下させる医薬品として初めて実用化されたもので、大手製薬各社がスタチンを発売し、ピーク時にはスタチンの全世界での売上高は3兆円とも言われました。遠藤先生がスタチンを見出す過程で共同研究をされたブラウン博士とゴールドスタイン博士は1985年にノーベル賞を受賞し、遠藤先生ご自身もラスカー賞やガードナー国際賞、京都賞といった栄誉ある賞を受賞されています。

スタチンは、コレステロールを低下させることで動脈硬化を防ぎ、何百万人もの人々を、脳梗塞や心筋梗塞から救いました。蓮見は、遠藤先生と共に、スタチンを超えるコレステロール低下物質を見出そうと長期間試みたものの、スタチン以上のものはなかなか見つかりませんでした。

そこで、今度は、脳梗塞や心筋梗塞の治療薬を見出す方向に舵を切りました。その結果、気が遠くなるほどの多くの実験を経て見出されたのが、血栓溶解作用を持つSMTP化合物です。その応用可能性に着目し、医薬品としての実装を目指し設立されたのがティムスです。

TMS-007開発と大学発ベンチャーとしての挑戦

蓮見の研究成果をベースに、当社はSMTP化合物の血栓溶解・抗炎症作用に着目し、急性期脳梗塞をターゲットにTMS-007(JX10)の開発をスタートさせました。

TMS-007の作用機序等についての詳細は、以前の記事「脳梗塞の治療課題に、創薬で応える:TMS-007/JX10」をご覧ください。

当社の特徴のひとつは、非上場かつ提携先のない段階で、新規低分子化合物であるTMS-007の前期第2相試験(Phase2a)まで実施した点にあります。一般的には、新規低分子化合物の開発は、しっかりした経営基盤を持つ製薬会社でないと難しいとされています。当社は、資金的に決して余裕のある状況ではありませんでしたが、患者さんに届く医薬品を創出するために、意思決定のスピードと柔軟性を大切にし、課題を一つ一つクリアしてきました。

また、そこには、「何事も実際に試してみる」「実験データをありのままに受け入れる」「一度信じたら、結果が出るまで諦めない」といった、蓮見が遠藤先生から継承してきた一種の哲学がありました。

TMS-007の国内での前期第2相試験結果についての詳細は、以前の記事「臨床試験から読み解く:脳梗塞の新薬候補TMS-007に寄せられる期待」をご覧ください。

TMS-007に続く展開:後続パイプラインと広がる創薬戦略

現在、TMS-007については、グローバルPhase 2/3のORION試験(4.5~24時間以内の急性期脳梗塞を対象)が進行中ですが、すでに次世代のパイプラインも動き始めています。

 

例えばTMS-008は、これまで承認された医薬品が無い急性腎障害の治療薬として開発が進められており、2024年12月に第1相臨床試験としてすべての被験者への投与を完了、2025年4月には良好な安全性・忍容性を示す結果が確認されました。詳しくは、2025年4月7日に公開しました「TMS-008の第1相臨床試験結果についてのお知らせ」をご覧ください。

TMS‑010は、やはり承認された医薬品が無い脊髄損傷の治療薬として、北海道大学から導入しました。現在、臨床試験への準備段階にあり、さまざまな検討を重ねています。

当社の創薬ベンチャーとしての哲学

当社は企業理念として「飽くなき探求心と挑戦で、世界を変えるクスリを創る」を掲げています。

この言葉には、研究成果を医薬品へと昇華させるために真剣に向き合おうとする蓮見をはじめとした我々の姿勢と、「世界に先駆ける存在」であることを目指す当社の経営方針の両方が込められています。

創薬における「直線」と「非直線」の道

医薬品業界では、標的となる分子が確定されて、その分子に作用する化合物を作っていくという、いわば「直線的」な創薬プロセスが主流となっています。しかし、有望な標的は数が少なく、限られた標的に対して多くの企業が殺到する現象が生まれています。

一方で、歴史的には多くの画期的医薬品が、偶然とも言える全く新しい研究成果に基づいて見出されてきました。このプロセスは、多くの場合、創意工夫を必要とする「非直線的」なプロセスです。当社は、大学等の新しい研究成果に基づく「非直線的」な医薬品開発に挑むことを恐れず、新たな医薬品を世に送り出して行きたいと考えています。

研究基盤を活かした開発力とグローバル展開への取り組みを通じて、バイオベンチャーという枠にとどまらず、創薬を通じて社会に新たな選択肢を届けていく。そうした姿勢こそが、ティムスの将来性を支える基盤と考えています。