1.脊髄損傷について

 脊髄は脳からの「手足を動かす・痛みやシビレを感じる」といった信号を手足の細い神経に伝える太い神経のようなものですが、強い外力などで脊椎が折れたり、大きくずれたりすると、その中に入っている脊髄も一緒に損傷され、運動麻痺・感覚麻痺・排尿排便障害などに至ることがあります1)。脊髄損傷は、日本では年間約5,000人2)、全世界では年間約18万人3)の患者が発生しているものの、未だ効果的な薬剤がない重篤な疾患です。現在、標準治療としてステロイド療法が認められていますが、必ずしも十分な治療効果が得られているとは言い難い状況であり、新たな治療薬が求められています。

2.TMS-010 について

 脊髄が損傷を受けると、およそ2週間に渡ってその損傷範囲は拡大していきます4)。これは二次損傷と呼ばれ、血液脳脊髄関門(BBSCB:Blood-brain spinal cord barrier)の破綻が病因のひとつと考えられています(図1)。本剤は北海道大学で見出された脊髄損傷治療薬候補化合物であり、BBSCBの破綻を防ぐことで、脊髄の二次損傷を抑制する神経保護作用が期待できます。北海道大学及び当社での非臨床における各種研究から、損傷部の空洞面積の縮小(図2)、生存神経細胞数の増加(図3)、運動機能改善(図4)、等の効果を認めました。

図1 二次損傷による損傷範囲の拡大
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図1 二次損傷による損傷範囲の拡大
図2 TMS-010投与後の頚椎高位の脊髄損傷部。TMS-010投与により、空洞面積の減少が認められました。
(グラフは平均値±標準誤差、n = 8、* p<0.05)
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図2 TMS-010投与後の頚椎高位の脊髄損傷部。TMS-010投与により、空洞面積の減少が認められました。
(グラフは平均値±標準誤差、n = 8、* p<0.05)
図3 胸椎高位の脊髄損傷部付近の神経細胞。赤い輝点で示される神経細胞の数は、TMS-010投与により、増加を認めました。
(グラフは損傷部から上下4mmの範囲の神経細胞数の平均値±標準誤差、n=10、* p<0.05)
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図3 胸椎高位の脊髄損傷部付近の神経細胞。赤い輝点で示される神経細胞の数は、TMS-010投与により、増加を認めました。
(グラフは損傷部から上下4mmの範囲の神経細胞数の平均値±標準誤差、n=10、* p<0.05)
図4 頚椎高位の脊髄損傷後の歩行可能速度。TMS-010投与により、有意に歩行可能速度が向上しました。
(グラフは平均値+標準誤差、n = 8、* p<0.05)
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図4 頚椎高位の脊髄損傷後の歩行可能速度。TMS-010投与により、有意に歩行可能速度が向上しました。
(グラフは平均値+標準誤差、n = 8、* p<0.05)

 当社がTMS-010を脊髄損傷治療薬として開発、製造、販売を進めることで、日本のみならず世界各国において、これまで効果的な薬物療法がなかった脊髄損傷に対する新たな治療選択肢となることが期待されます。

 

 

参考資料:

  1. 一般財団法人日本脊髄外科学会Webサイト(https://www.neurospine.jp/original62.html
  2. Miyakoshi N, et al. A nationwide survey on the incidence and characteristics of traumatic spinal cord injury in Japan in 2018. Spinal Cord 59(6), 626-634 (2021)
  3. Lee BB., et al. The global map for traumatic spinal cord injury epidemiology: update 2011, global incidence rate. Spinal Cord 52(2), 110-116 (2014)
  4. Ahuja CS, et al. Traumatic spinal cord injury. Nat Rev Dis Primers. 27(3), 17018 (2017)